しとしとと闇に降る雨が二人を濡らす。
濃い水の匂いが立ち込める。

「もう、どないしたら、どないしたらええん、ボクは。」

彼の嫌う、生温い雨。

「隊長。」
「分からんよ、ボク、」
「隊長。」
「もう、駄目や、もう、無理なん、」
「隊長。」
「あかん、もう、せやけど、どないしたら」
「たいちょう、」

雨が地を打つ音が、絶えることなく落とされる。
濡れて額に張り付いた銀髪を、そっと指で払いのけると、透き通るほどに青白い肌と薄青の瞳が覗いた。
全体が、色が抜け落ちたような色彩のひと。
この雨に溶かし、流されてしまうような気がした。
水滴が頬を打つのを感じながら、彼に降り懸かっているのは、この雨のようなものなのだと思う。
避け難く、不快感に充ち、孤独。
びしゃびしゃに濡れた頭で見下ろした男は、いつになく小さく見えた。
それが少し恐ろしく思え、水気を含んだ髪を、腕を、体を、同じように湿った腕で抱き寄せる。
その身体は不自然な程に冷えていて、さして温かくもない自分の体が、熱くなったような錯覚を起こす。
ぐちゅり、と強く薫る水が、鼻腔に纏わり付く。
胸の中で小さく彼は言った。

「……こわいよ、イヅル。」
「御守り、いたしますから。」
「イヅ、」
「守りますから。」

雨から、定めから、あなたに降り注ぐ全てから。
僕の持ちうる全てで以って。

「此の手で、必ず。あなたを御守りします。だから、」

小さく、隊長は頷いた。

「帰りましょう……お体に障ります。」

そして、この脆く危うい孤独な彼を、世界中で自分だけが知っていれば良いと願った。

 

(20110723)


…………
院生126は「死にたくない」と言ったけども、
カラブリの126は「隊長の為なら命も厭わない恭順な副隊長」となっていたのです。
要するにそれだけ126はたいちょが大切なんだと主張したい。


没にしようかと思ったけど勿体ない精神を発揮させた

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